後見制度支援信託とは?制度概要と利用すべきケースを解説
成年後見制度を使うと、判断能力が低下してしまった人の財産管理を適切に行うことができますが、被後見人の財産があまりに多額な場合、財産管理方法を工夫する必要があります。
このとき利用できる制度に、後見制度支援信託があります。
これはどのような制度で、どのようなケースで利用すると良いのでしょうか?
今回は、成年後見業務で役立つ後見制度支援信託について解説します。
1.後見制度支援信託とは
後見制度支援信託とは、成年後見人が被後見人の財産管理を行う場合に、信託銀行に財産の一部を預けることができる制度です。
成年後見人とは、認知症などにかかって判断能力が低下し自分では適切に財産管理ができなくなった場合に、その人に代わって財産管理を行う人のことです。
成年後見人をつけると、自分では財産管理ができなくても、判断能力のある第三者に適切に財産を管理してもらえるので安心です。
成年後見人は、基本的に本人の財産をすべて預かり管理します。
ただ、日常の後見業務を行う場合、多額のお金は必要ないことがほとんどです。
それにもかかわらず後見人が数千万円以上のお金を常時預かっていると、不祥事が起こる可能性も出てきます。
そこで、日常生活に必要な金額を超えるお金を信託銀行に預ける制度が後見制度支援信託です。
このことによって後見人が自由に使えるお金が限定されるので、後見人による不正や過失による財産の逸失などを防ぐことができます。
後見制度支援信託を利用できるのは、法定後見の中でも後見人のケースと未成年後見人のケースです。
法定後見の中で保佐人や補助人がついているケースや任意後見契約のケースでは、この制度を利用することはできません。
2.後見制度支援信託を利用すべき場合
後見制度支援信託は、どのような成年後見の事例でも利用すべきというわけではありません。
日常生活には不必要な金額の管理を信託銀行に任せる制度なので、本人の財産がある程度多額なケースにおいて利用が推奨されます。
家庭裁判所からは、本人の財産額が2000万円を超えるケースにおいて、利用を勧告されることが多くなっています。
後見制度支援信託は、後見人の就任当初から利用することもできますし、後見人の就任後に後見業務の途中から利用を開始することも可能です。
反対に、日常生活に必要な財産プラスα程度の財産しか無い場合には、あえて後見制度支援信託を利用する必要はありません。
3.後見制度支援信託の利用方法
後見制度支援信託を利用したい場合、まずは後見人として、弁護士や司法書士などの専門家を選任しなければなりません。
これは、後見制度支援信託の契約を行うことができるのが専門職の後見人だけだからです。
そこで、子どもなどの親族が後見人になっているケースでも、いったんは弁護士などを後見人にしなければならないのです。
そして、選任された専門家の後見人が、本人の財産のうち、いくらを信託銀行に預けるかを決定します。
その上で家庭裁判所に対し、本人の財産状況や後見制度支援信託を利用すべき金額について報告をします。
すると、家庭裁判所が提出された報告書を見て、その事案が信託制度の利用をすべきであると判断した場合、後見人に対して後見支援信託制度を利用すべき指示書を出します。
後見人は、この指示書を受けとり、信託銀行に提示することによって、対象とする財産についての信託契約を締結して、財産を預けます。
このようにして、信託契約が締結されて信託業務が開始されたら、その後は信託銀行によって余剰の財産が管理されることになります。
もともと専門家の後見人が就いていた事案ならそのまま専門家の後見人が後見業務を継続しますが、もともと親族の後見人が就いていた事案なら、専門家の後見人は辞任して、もとの親族の後見人が再度就任することになります。
このとき、専門家が管理していた本人の財産は、親族の後見人に引き継がれます。
4.制度の利用後にお金が足りなくなった場合の対処方法
いったんは後見制度支援信託を使うケースでも、その後、何らかのきっかけで多額のお金が必要になるケースがあります。
こうした場合、いったん信託銀行に預けたお金を払い戻さなければなりません。
そのためには、後見人が家庭裁判所に対して、何のためにどのくらいお金が必要かを説明するための報告所を提出する必要があります。
家庭裁判所において、報告書の内容を見て、必要性があると判断されたら払い戻しを行うための指示書を発行してもらうことができます。
この指示書を信託銀行宛てに提示したら、信託財産の中から必要な財産の払い戻しを受けられます。
まとめ
このように、後見業務を行う場合には、後見人による不祥事を防ぐためにも後見制度支援信託を利用すると役立ちます。
今後成年後見制度を利用する場合には、是非ともこの制度を上手に活用すると良いでしょう。